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2012.04.26 Thursday  | - | - | 

「ヘルマフロディテの体温」 小島てるみ

「ナポリを見てから死ね」という。
この世で最たる美しさと多くの人々が称賛する街。無論異を唱える埒もない。
明るい日差し、光り波打つ海と潮の香り、陽気な人々。生を謳歌する歌声。
私たちのイメージする美しい「イタリア」がこの言葉にはある。

しかし初めて書いた小説がイタリア語という、伊語翻訳家でもある作者が描くナポリはこのイメージにはそぐわない。
明るい日差しも美しい街並みも潮の香りだってちゃんと在るのに、哀しくなるほど暗いのだ。
例えるなら美しい廃墟のような、整えられた墓地のような、死にながら生きている、うつろな空気に満ちている。
そして死んだ事に気づかない街、伝説のポンペイが隣に位置する。
作者が想いを語る舞台にここを選んだのはきっと偶然ではない。

主人公のシルビオは、ポンペイを伝説ならしめた元凶・ヴェスビオ火山を挟んでナポリと対に位置する街・カステラマーレの出身だ。
彼の自慢だった美しい母は家族と女の肉体を捨て、男としての人生を選んでしまう。
故郷も思い出も自我でさえ、母に係わるものはすべてこの世から消し去りたいと願うシルビオ。
ナポリに出てきた彼は真性半陰陽(ヘルマフロディテ)の教授の教えで本当の「生」を得る。

眩しい暗さ
男でも女でもある性
聖なる娼婦
冷たくて熱い体温
本能的な理性

矛盾しながら合致する、対義=同義の不思議。それが本書の魅力である。



自我も自己も殺そうともがいて生きる主人公に、教授は物語を書けと課題を出す。
でも、医大の教授が生徒に与える課題が何故「物語」なのだろう?
医学レポートでも絵でも写真でも、対象物を見つめる眼を持てば表現媒体は何でもいいのではないのか?
しかしこの「物語を書く」という行為こそが作者が最も伝えたいところ、この作品の真の魅力なのだ。

人魚や天使や白馬の王子を美しいままで捉えきれなくなった時、人は子供時代と決別する。
物語・おとぎ話に込められた寓意に気づいてしまうからだ。
この世の不条理であったり、欺瞞であったり、耐えがたい苦痛が夢見る事を放棄させると言ってもいい。
一方で苦しみを知らなかった頃に戻りたい、安らぎを信じていられた頃に戻りたいという、一種の子宮回帰願望を同時に抱えてしまったりもする。辛い経験をしたことがあるなら誰でも覚えのある感覚だ。
シルビオが母を憎みながらも模倣するのはまさにこの事を指している。

矛盾と合致の不思議を駆使して作者は伝える。
人生とは己の半身を探すことだと。揺らぎ続ける自己を確かなものにするために人は半身を探すのだと。見つける半身は運命の「人」かもしれないし、欠けた心を埋める「癒し」かもしれない。
そうして完成された個となった時、人はおとぎ話をもう一度楽しめるようになっている。

夢のベールで隠された中では剥き出しの創痍が血を流す。
すべて解っていてあえてベールの美しさを愛でる。それがおとぎ話・物語なのである。
矛盾に傷つき、受け止め、整合を得たものだけが到達する心の高みだ。

アポロ11号も月のうさぎも同じこころにいる。
人が物語を求める1つの答えがここにある。


教授は青年に「物語」を書かせることで彼の欠けた半身に気づかせた。不足を補い完全となってもう一度生まれ直す事さえさせた。
教え育てる、「教育」とはこういう事なのだろう。先人の導きはかくも深い。

そして作者も「小説」を書く。彼女もまた物語を紡ぎながら半身を探している。
本当の生を送るために。



「ナポリを見てから死ね」という。
やはり、先人の教えは深い。







こちらの書評は11/6付の
「bk1書評ポータル」で「なるほど!書評」に選んでいただきました。
ありがとうございました♪
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2009.11.08 Sunday 21:25 | comments(2) | trackbacks(0) | 
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